遅い眠りについて、そう経ってはいない。
玄関に来客を知らせる音が響いた。











夜分遅くに…。
申し訳なさそうに眉を下げて、ずぶ濡れの日本がチャイムを鳴らしたのは成る程、午前三時。
濡れるからと玄関から先に進まない日本を大急ぎで無理矢理に連れ込んだ。












「時差を計算し間違えまして…」

外で時間をつぶしていたのだという。
途中で降られました、と大きなバスタオルから顔をのぞかせて苦笑する日本を見やる。

「着いてすぐ、来ればよかっただろう。」
「いえ、日を越えてすぐあたりでしたので、ご迷惑だろうと…。」
「日を越えてって…お前、三時間も外に居たのか!?」

驚いて大きな声を出す俺に、日本は別段気負った風でもなく「はい。」と答えた。眩暈がする。
まごまごと動かすタオルを取り上げながら話す。

「迷惑じゃない。だからそういう時はすぐ来い。」
「え、いえ、しかし私が間違えて…。」
「いいから。」

黒髪に滴る水気をタオルで拭き、少々強く言うと、日本は感情の読みにくい表情ではぁ、とぼんやり答えた。
今更ながらに髪を拭くという自分の行動にむず痒いものを感じたが、日本は特に何も言わずなされるがままだった。
珍しい、何時もなら断ってくるだろうに。
俯いている事と、大きなタオルで表情の見えない日本に目をやる。



普段なら自分より濃い色の肌は、寒さに色をなくしている。
あらかた水気の消えた髪は、しかしいつもと違いしっとりとしている。
白い頬に張り付いた黒髪が嫌に目に付いた。



何を思うでもない、ごく自然に、手を頬に伸ばしてその一房の髪を指に絡めた。
俯いた日本が微かに視線を上げる。













瞬間、まさにその瞬間に部屋のドアが音を立てた。













「…あー…あの、雨の音で、寝れなくて…ね…?」
「…。」
「……お邪魔しましたー…。」

いつもとうって変わって落ち着いた様子で、静かに廊下に消えていく。

「…っな、ちょ、おま…イ、イタリア…!!」

その静かさが逆に怖い。
とりあえず俺は、日本に待つよう言ってイタリアを捕まえるべく部屋を飛び出した。
とにかくちゃんと話して誤解を解かねば、と。


何が誤解で、何を話すのか。
頭の片隅で本能がそう呟いたが、必死で無視した。


















(聞いてくれませんでしたねぇ。)

(何で来たのか。)

(逢いたかったなんて言ったら。)

(あの人、どうするでしょうね。)


時間を間違えても、雨に降られても帰らなかった。


(…まったく、青臭いことだ。)

自分には大きすぎるバスタオルにくるまって、年若い二人の元気な姿を見送り小さく笑った。











黄金期間リクエスト「独日+伊の甘甘」です。
甘甘と聞くとスキンシップあればいいと思ってる単純馬鹿です。
イタリアとかホントちょっと過ぎるにも程があるよ…。
リクエストくださった方、有難う御座いました。