はてさて、どうしたものか。
「…の、残していいぞ。…不味いってのは分かってるんだ。」
目の前の彼は、いつも通りの尊大な口ぶりと、それに似合わぬ悲しげな表情でそう言った。
どうしてこうなったのか。
舌の上で…何と言おうか、そう、「絶妙な味」をしている固形物体をゆっくりと咀嚼しながら私は考えていた。
そもそも事の始まりは私からであった。以前彼に素晴らしい薔薇を頂いたので、その礼に茶の席を用意したのだ。
彼は、西欧の国にとっては堅苦しいであろう作法を事細かに聞きながら、ぎこちなくも実践していた。
一式を終えたところで、彼の笑顔は何とも楽しそうであったので、私もこれが礼になったと安心していた。
そうして、そう。折角いらしたのだ、積る話もありますゆえ、と居間に通した。
そこで彼のいささか大きな荷物から綺麗な包みが出てきたのだ。
彼はそれを「チョコレート」だと言った。茶の席だというから、菓子を用意してくれたのだと。
噂は聞いていた。だが、風評に惑わされ食べもしないものを貶すのはどうだろう。
少々の不安を感じてしまった己を叱咤し、礼を言って一つ口にしたのだ。
そして冒頭に至る。
記憶が正しければ、「チョコレート」は甘く、また熱によってすぐ溶ける食べ物であったはず。
口の中の…「コレ」は何故か甘味を微かな風味ほどにしか感じられず、ゆえに味があまり…無い。
しかも溶けない。だから噛んでいる。
「いえ、不味いという程では…私にはいささか、慣れぬ味ですが…。」
「…それを世間では「不味い」っていうんだよ。」
精一杯貶さぬように返答したつもりだが、ばさりと切り捨てられてしまった。不甲斐無い。
「悪かったな、残せよ。」
「いえ、しかし折角頂いたのですから…」
「ま、不味いもん無理して食われても嬉しくねぇよっ!」
思いのほか大きな声に、本人も驚いたらしい。ばつが悪そうにそっぽを向いてしまった。
彼の行動も発言も、本音本心の裏返しである事は分かっている。むしろこれほど分かりやすい表現もあるまい。
子供の天邪鬼のようなものだ。
大の大人がする事では確かにないが、それを彼だと愛らしいと思ってしまうのだから仕方ない。
多分コレが正解だろう、子は導けばよいのだ。
「イギリスさん。お菓子を作りましょう。」
「日本、これはどうすりゃいい?」
「そろそろ砂糖を入れて…ああ、弱火です、焦げますから。」
言うと彼は途端に慌てて「よ、弱火…」と呟きながらコンロの火を小さくした。
慎重に真剣に、小さな鍋を見やる彼を、やはり愛らしいと思ってしまう自分に苦笑する。
「失礼しますね。」
言って、混ぜていたボウルの中身を丁寧にこしながら鍋の中に入れる。
「混ぜるのか。」
「ええ、全体にしっかりと混ぜ込んでください。…それぐらいですかね。」
用意していた容器を並べ、その中に流し込むよう頼む。
緊張した面持ちで、彼は見事に均等に鍋の中身を分け入れたのであった。
冷蔵庫から取り出して、皿に盛り付ける。
居間の机に並べていると、彼は今度こそいつも通りの自信ありげな表情でやってきた。
その手には紅茶。
「では、いただきましょうか。」
「…おう。」
一口食べた、彼のあどけない素直な笑顔に、私は自分の選択の正しさを確信したのだ。
目の前には、美味しそうな黒胡麻プリン。
黄金期間リクエスト「英日二人で料理」です。
料理の描写少な。そう思うなら直せ。
英は私が書くと天才的なヘタレです。カッコいい英が書きたいとも別段思わないあたり鬼。彼はヘタレだ。酷い。
作る料理、というかお菓子は、写真画像で決めました。凄く美味しそう。
リクエストくださった方、有難う御座いました。