ひどく儚い薄紫の空は、朝の肌寒い空気の中で美しく透き通った色を見せている。
少しずつ差し始めた細い日の光が木々の緑を鮮明に浮び上がらせる。
小さく、鳥がさえずりだす。
しっとりと湿り気を帯びた空気にその身を委ね、ギリシャはそこに祖たる国を感じた。
(懐かしい。)
ここは「己」ではないが、しかし何故か望郷を呼び起こす。
美しく偉大な、母を。
「お早いですね。」
寝間着の上に深い青の羽織をかけ、日本が静かに話しかけてきた。
「…うん。朝は、気持ちいいから。涼しいし。」
「もう初夏ですから。」
朝と夕は涼しいですけれど、昼はね。涼やかな庭でそう言いながら、日本は笑った。
それきり、言葉が途切れる。
心地良い沈黙の中、明るくなり始めた空からは紫が消えていった。
「日本は、すごく綺麗だ。」
「えっ…あ、ああ、風景ですか。」
「…どっちも、かな。」
「…えぇっと、有難うございます…。」
突然のギリシャの言葉に面食らいながらも日本はしっかりと礼を言った。
言った本人は特になにを思う風でもなく、いつも通りの飄々とした気配で佇んでいる。
「古いもの、沢山あるし。」
「先人の残してくれたすばらしい物ですから。」
部屋に戻る気配も無いギリシャを、しかし戻るよう急く事も無く、日本は庭に面した縁側に腰掛けて答える。
「ギリシャさんの所だって沢山素晴らしい遺産があるじゃないですか。」
「うん。母さんが残してくれた。俺の誇り。」
そう言うギリシャの表情は、分かりにくくはあるが、確かに誇らしげであった。
「日本は。」
続く言葉を欠いた質問に、「はい?」と問いかける。
「日本は、全部日本が創った?」
青々とした馬簾の葉に光る夜露を弾きながら、ギリシャはそう言葉を続けた。
「…いいえ。沢山、沢山の様々なものが私を創っているのです。」
「母さんが、沢山?」
なんとも難しい事を問うと思えば、返す言葉はあどけない。日本は小さく笑いながらそれに同意した。
「そうですね。本当に、沢山の母上です。」
永く永く続くこの身は、本当に驚くほど様々なもので出来ている。
遠い、もう二度とまみえる事は無いであろう多くを日本は想った。
「…やっぱり、日本は綺麗。」
いつの間にやら、庭から日本に目をやったギリシャが、優しく微笑んでそういった。
それがどちらの事か、日本は聞かずにおいた。
黄金期間リクエスト「希日」です。
最後なのに見事なまで糖分なし。酷い。
本当、これがギリシャである必要があったのだろうか…。
なにはともあれ、リクエストくださった方、有難う御座いました。