「分かりました。貴方に従いましょう。」
なんでだろう。どうしてこんなに静かなのか。
負けた国は沢山見たし、こうやって戦後処理をするのだって何回目か。
その全てと、目の前の国は違う。
もっと憎しみを滾らせた眼をするものだろう。
怒りに燃える瞳を、屈辱に揺らぐ瞳を。
どうして目の前の瞳は、こんなにも静かなのか。
「ねえ、日本。君、俺が憎くないのかい。」
「…そのようなこと。」
いつも通り、静かに笑って否定する。
けれど何故だろう、今日は逃がす気にならなかった。
「建前はいいよ。」
「…。」
ばさりと切り捨てれば、困ったように黙ってしまう。
その眼はやっぱり静かなまま。
何故か胸がざわめく。不快に。
「君は俺に負けた。憎んでるんだろう、恨んでるんだろう。ならどうしてそんなに静かなんだい。」
ちちち、と愛らしく鳴いていた鳥達が、一斉に飛び立った。
思いのほか大きな羽音に目をやれば、薄い日の光に照らされた庭木の枝が風も無いのに揺れている。
あとは、何もない。
幾度か目にしたことがある場所だが、いまこの瞬間、この空間のなんと静かな事か。
「恨めません。」
ぽつりと呟かれた言葉は小さく、しかし驚くほどはっきりとこの耳に届いた。
「恨めぬのです。何も。」
言葉を続ける日本を見やれば、不自然なぐらいに黒く動かぬ瞳が、逸らされる事無くこちらを向いている。
何も隠していない。何も覆っていない。
だってこの黒の底には、何もない。
何故か分かってしまった。静けさの理由も不快な感情も、全て。
恨めないのだ、嫌えないのだ。この国は何もかもを。
怒りにその身を委ねることが、何より楽になると分かりながら、決して何者をも憎まない。
己のみを責め、己のみを否定し、苦しみも悲しみも全て己に内包するのだ。
一切理解は出来ない。自分なら決してそうはならないから。
だけれどこの国は、確かに俺の理解できない場所にいるのだ。決してその事実だけは揺るがない。
「…そう。」
「はい。」
何も言えないじゃないか。分かってしまったら。
傷つけてしまった、この国を。
この国だけは駄目だったのだ、きっと。
怒りも恨みも悲しみも苦しみも憎しみも痛みも全て全て、きっともう俺に向けられる事は二度とない。
それが悲しいことだというのは、そしてもうどうしようもない事だというのだけは、理解できた。
黄金期間リクエスト「米→日な切ない米日」です。
見事な玉砕ぶり、最早笑ってやってください。はは。
荊さま、リクエスト有難う御座いました。どうぞこちらの文はご自由にお扱いくださいませ。