直に暑くなりますよ。日本はさやさやと風に揺れる緑に水を撒きながら、そう言った。
成る程、少し前に来た時は緩やかであった日差しは今、少しばかり暑さを感じるほど強い。
こんなにもはっきりとした季節の存在は未だに慣れないが、それは決して悪いものではなく、むしろ心地良い。
感化されてるな。自身の考えにドイツは苦笑した。
出された茶は熱い緑茶でなく、硝子のコップに入った麦茶だった。
冷蔵庫に常備しておくんです。そろそろ緑茶は熱いでしょう。日本はそう言いながら小皿をドイツの前に出した。
何かと問うと心太ですと返事がかえる。聞いた事のない食べ物であるが、日本が出したものなら大丈夫だろう。
ドイツは別段警戒もなくフォークを持ち、その透明な糸をするりと口にした。
旨い。なんとも味気ない、しかし紛れもなく本心であるドイツの一言に日本は、それはよかったと笑った。
開け放った大戸から流れる風が部屋を撫でる。
草木の擦れる音が響き、しかしこの空間は何ともいえない静寂を持っている。
ドイツは日本の家に来るといつも、時間から切り離されたようだと感じる。
自分よりずっと年上である日本の幼い顔姿を見ると、その感覚は強ち間違っていないのではないかとすら思う。
まさかな。声に出てしまった一言に何がです、と問いかけられた。
ドイツが慌てて何でもないと伝えると、日本は静かに笑ってそれ以上言葉を続ける事はなかった。
似つかわしくない大きな鉢植えが見え、ドイツはそれをじっと見つめた。
白百合の球根を頂きまして。視線に気付いた日本の言葉に、ドイツは何とはなく贈り主の想像が付いた。
大事そうに鉢植えを見やる日本にドイツは深くため息をつく。
妬かないでくださいよ。押し黙ったドイツに日本は困ったように笑って言うと、妬いてないと答えがかえった。
鬼百合を差し上げましょうか。赤い顔で目線をあわそうとしないドイツに日本が声をかける。
むかごで増えるのですよ。またも聞いた事のない言葉にドイツはむかごというと、と聞き返した。
日本はやっとこちらを向いたドイツに微笑む。
種、のようなものでしょうか。葉の付け根に出来るのですよ。それを植えれば育ちます。強いユリですから。
口数多く語る日本に、ドイツはお前のような花だなとらしくない言葉をさらりとはく。
今度は二人して赤面した。
暑くなりましたね。赤い顔で日本が言うとドイツもああ、と短く返した。
直にとは申しましたが、何とも早い事。
家主の一言に二人で小さく笑った。
なんとなく静かな日本の家を表したくて「」無しで書いて撃沈。
春の陽気も逃げ出す暑さ。