恋しい(独日)

その感情は自分にとってひどく持て余すもので、ほとほと困り果てるばかりだ。
まず全く持って理知的、理論的でないのだ、この感情は。

有りのままであって欲しいと思えば、掻き抱いて手元に置きたくもなる。
優しく静かに触れたいと思えば、荒々しくも引き裂きたいと感じる。
如何したいのか問われても答えられはしないが、如何もしたくないわけでは決して無い。
矛盾と不確定を多分に持つこれは、自分が非常に苦手とするものだ。

本能は言う。
それは恋しいという想いだ。

(答えなど出ている。)

ただただ、認めるだけ。

(…恋しい。)

その言葉を思い浮かべるだけで認められたならどれだけ楽か。
完全な負け戦。
頑として白旗を振らぬ理性に、もはや苦笑いしか出ない。








苦しい(仏日)

誇り高い精神。
決して屈さぬ強さ。
優しさ。

輝く太陽の乙女は己を愛して死んでいった。



どうか思い出させてくれるなと、根深いところで悲鳴が聞こえる。



苦しい。








淋しい(中日)

昔は小さくて、なんとも頼りなくて。
我の手を離れればすう、と霧の如く消えいきそうな国だった。
可愛らしかったかの国を思うと、自然と顔がにやける。

それがどうだ、今この時代。
幸せな空想から一転、眉間に深く皺が走る。

世界第二位の経済大国として、亜細亜の羨望を集める強大な国。
己の足で立てるどころか我に手を差し伸べるほどまでに成長した。

戦で我に剣をむけ、敗戦し、それにもかかわらず我の上を進んだ国。
恨みは確かにあると思う。
だが、なんというか、そういうのではなくて。

小さな小さな可愛い弟はこの手からとうに巣立っているのだと思い知らされる。

そう、怒りや恨みや嫌悪よりも限りなく大きいのは淋しさ。


(兄ちゃんは淋しいあるよ…)


一喜一憂、ころころと表情を変えながら、愛する弟を思った。








悲しい(米日)

物を手にするのは簡単だった。
同じようにしたら、二度と手が届かなくなった。

捻じ伏せて、叩きつけて、ぐちゃぐちゃにすれば縋り付くと思った。
今なら分かる、なんて馬鹿らしい。
所有すら、自分はきっと望んでいなかったのだ。

前を見据える瞳が美しかった。
優しい光を湛えた黒。
昔から、欲しかったのはそれだったのに、自分は何をしたのだろう。



けれど、深い深い傷をおっても、彼の国は自分に優しく強く微笑んだ。



それが何より悲しい。








欲しい(英日)

素直さが欲しい。

汲んでくれるのだ、全て言わずとも。
いき過ぎた言葉に腹を立てることも無い。
上手く取り成そうとするし、無理でも困ったように笑うだけだ。

自分は決して暴言など吐かない。
その上、些細な事でも礼儀を欠いたと感じればすぐに謝る。
情けない、俺は自身の暴言を何度謝れたというのか。

素直さが欲しい。
せめて彼の国にだけでも。



そうすれば、言える言葉もあろうものを。







甘えたい(仏日)

飄々とかわして、誤魔化して。
まかせろ大得意。

けれど疲れもするのですよ。俺だって。

何だかんだと理由をつけて、それらしく訪ねれば決して無下にはしない。
なんともズルイこと。


甘えたい。


口に出さなくても甘やかしてくれるから、やっぱり今日も甘えに行く。








逢いたい(土日)

この時代、自分がここまで良くしてもらえるとは思っても見なかった。
むしろあの荒海から助け出された事さえにわかには信じがたい事だ。

限りなく優しい国だった。
民も、彼の国自身も。

恩義は決して忘れない。
いつの日にか、必ずこの島国の為にこの身を投じる。

逢いたい。
必ず、いつか、もう一度。

あの時とうって変わって静かな海に揺られながら、もう小さく見えない彼の国へ誓った。








忘れたい(韓日)

例えば昔の愛しい記憶を。
あまりにも幸せすぎた過去を。

例えば優しさの記憶を。
自分に向けられた友愛の感情を。

可愛らしい弟と、雄大な兄。
一人が欠けた途端に、その絆は驚くほどあっさりと解けた。

哀しいほどに大好きだった。
だから、全て忘れたい。
驚くほどたくさんある、あの日々の記憶全てを。


(忘れなければ辛いのは、愛してやまないからだ。)


どうして今、あの愛しい人達と笑い合う事ができないのだろう。








泣きたい(独日)

涙を流した事など殆ど無いに等しい。
これほど泣きたいと思ったことも、無い。
離すものかと握った手は、しかしいとも簡単にその力を失った。
二度と触れる事が出来ないだろうと、分かっているのに。

一人残して行けというのか、この絶望の中に。たった一人。

合理、現実、益、全て捨ててもいいと思えた一瞬。
最後の最後で俺の背を押したのは、置去りにされる彼の国だった。



涙すら涸れ果てたか。
声を上げて泣きたい位、果てなく哀しいのに。








戻りたい(英日)

銃を構えて、狙う。
鉛球が深く深くその身を抉るように。
お互いに。


紅茶の葉は、一体どれだけ使われたのか。
緩やかで優しい時間は確かに現実だったのに、何故だろうまるで夢だ。


(戻りたい。)


引き金を引いた。











拍手第二弾でした。
あえて組み合わせを書かずに置いてました。私の中では上記のイメージで書きました。
お題小町さま(http://odaikomachi.blog27.fc2.com/):感情単語10題