拝啓 長雨の降る、うっとうしい梅雨の季節となりました。

辟易とする空気ながら筆を取りまして、あなたに初めて手紙を書こうと思います。
仕事の類で御座いましたら幾枚と書き連ねてまいりましたが、私用の書はついぞ筆を走らせる事がありませんでしたから。

お体の加減はいかがで御座いましょう。
本来なら直ぐにでも書なり電報なり打つべきでございましょう。申し訳ありません。
遅ればせながらご無事であられた事への喜びとお見舞いをお伝えいたします。

真面目なあなたの事でございますから、きっとご自分を責めておいででしょう。
ですが、どうぞ今はその美徳をお忘れになりご養生くださいませ。

では、乱筆乱文大変失礼致しました。

 敬具







検閲を通され、しかし何一つ戦略的情報が無いからだろうか、手紙は廃棄される事なく俺に届いた。
本来ならば届くはずの無い国からの手紙。
なんとも複雑な表情でそれを渡したフランスはそのまま部屋の隅に座った。
既に封の開いた手紙を取り出す。
幾分質の悪い紙は指にひっかかり、それが彼の国の状況を思わせて眉根をひそめた。
日本にとって慣れないであろうドイツ語の文字は、しかし別段問題もなく読み進む事が出来る。
俺はこれ程までに日本語が書けるか、今更ながらに思った。








読み終えた手紙を再び丁寧に折り、封筒と共に傍の棚へ置く。
返事は?
フランスが言葉を発することなく目で問いかけてきた。



手を離した。
最後までずっと掴んでいてくれた手を。


一体何を言えるというのだろうか。



ゆるく首を振ると、そうか、とこの部屋に入って初めてフランスは声を出した。
なにやら言いたげな目で俺を見、しかし結局言葉を発することなく出て行く。
何を強いることなく。





無意識に握り締めた手の力を、やっと抜く。真っ白であった包帯は手のひらに赤い色を飛ばしている。
虚ろにそれを眺めたが、鮮血に吐き気がした。無理矢理に目を閉じる。
眠れそうに無い。この赤など見慣れているだろうに。






瞼の裏には真っ暗な世界と鮮やかな赤い色。
黒曜の瞳に映る真っ赤な飛沫。










裏切り者の身を案じる、優しい戦場の国。

















本当に吐き気がする。