拝啓 長雨の候、お体の具合は如何で御座いましょうか。

こちらの梅雨という季節は雨ばかり続き、なんとも気が滅入るばかりです。
早く明けぬものかと日がな思っておりますものの、これも四季ある国ゆえで御座いますから仕方ありませんね。

同封したものは見ていただけたでしょうか。無事に届けばよいのですが。
こちらでは「折り紙」と言って、紙一枚を折って形を作る遊戯がございまして、これは「鶴」です。
疎開する子らが、沢山折ってくれたのでおすそ分けいたします。

鶴は千年生きると申します。
どうか貴方の行く先にも、幾千年の時が続いておりますよう願っております。

 敬具




やはり検閲か、封の開いた手紙をまたフランスが手渡してきた。
彼は前と同じように部屋の隅に座って、やはり静かに黙っている。
椅子に逆向きで跨って、背もたれに腕を組み頭を乗せてこちらを見ていた。
「…気味が悪い。」
似合わぬ静寂に思わずそうもらせば、驚いたように目を開いてこちらを見て答えた。
「眉間にしわ寄せて黙ってるからだろーが。喋ったら悪いかと思ってたんだ。」
「俺に気を使うような奴だったか、お前は。」
愛想も何もなく答えて、この男は俺のこういう物言いが嫌いなのだろうな、と何とは無しにそう思った。
恐らく呆れたようにため息をついて出て行くだろうと、今までの経験から予想したが、男が動く気配は無い。
訝しげに視線を上げると、何故かフランスが静かに笑っていて、今度はこちらが驚き目を見開く番になった。

「喋ったな、やっと。」

本当に、似合わぬ落ち着いた静かな声で、何故かこの男が泣き出すのではないかと思った。

「ソレちゃんと読めよ。で、さっさと返事書け。」
思わず呆けた俺に、いつも通りの軽い調子でそれだけ言うと、フランスはひらひらと手を振りながら出て行った。
気付いた時にはドアが音を立てて閉まり、手紙だけが残っている。
フランスのあの笑顔が何故か懐かしく感じて、しかしその理由は分からぬまま手紙を開いた。









棚へ手紙を置き、封筒を覗くと、中に二つほど何かが入っていた。
取り出して広げると、成る程鳥を模してある。おそらく今広げたこれは羽だろう。
鶴と言われれば、まあ、そうかもしれない。
紙はひどく鮮やかな色彩で、確か「チヨガミ」と言ったはずだ。日本で、子供達が教えてくれた事があった。
あの子らは、無事に疎開したのだろうか。
生きているのだろうかと考えたところで頭の中がぐわんと揺れた。


千年の時を生きろと、死の瀬戸際にある国が言う。
彼と同じように、永い時を生きろと。
置き去りにしたのは、紛れもなく俺であるのに、その俺の行く先を祈るのだという。

力を込めると、思いのほか大きな音にはっと気付く。




広げた手のなかで赤い鶴が、首を折り曲げ潰れていた。




「…っ…!」
胸のうちからこみ上げるような吐き気がした。手で口を押さえる。
過呼吸に視界がゆがむ。必死に押さえ込もうと背を丸めた。ゆっくりと呼吸を浅く、落ち着かせる。
最後に深く息を吐いて、そのままベッドに倒れこんだ。

潰れた鶴は手の内から消えていた。
床に落ちたのだろうが、拾う気は無い。目にもしたくなかった。
棚に置かれた手紙を見ることすら、考えただけで頭がぐらぐらと揺れる。
いっそ捨ててしまいたかった。どうせ出来はしない、前の手紙は丁寧に引き出しの中に保管されている。
返事など書けるはずも無い。









何も考えたくない。