いきなりやってきた日本は、手短に挨拶をした後
「ちょっとお借りします。」
と言い放つと、返事も待たずにソファの端へちょこん、と座る。
「…どうせ借りるなら、もっとゆったり座れば?」
黙り込んだままの日本に、フランスは辛うじてそれだけを言った。
(Bonjour.
皆のアイドル、フランスにーちゃんです。
ぶっちゃけ凄い困ってます。今現在。
何が起こったって?
簡潔に言えば、日本が連絡なしに飛び込んできてソファでいじけてます。
え、なにこれどういう状況?)
フランスは混乱の極みであったが、らしいというか、それは一切表情に出ていない。
仕事机で書類片手に座っている。いかんせん、目線はちらちらとソファに向けられているが。
垣間見る日本はやはり黙り込んだままで、相変わらずこじんまりと座っている。
静かな部屋で、フランスの脳内は混乱から疑問へと変わっていった。
(さて。
どーしたもんかね。
まあ、考えてても仕方ないか。)
ゆったりと椅子から立ち上がって、ソファへと足を運ぶ。日本は視線を向けることも無く微動だにしない。
フランスはソファの前に立つと、日本の隣に空いた広いスペースに体を投げ出すように座る。
バネの揺れに、やっと日本はフランスに目を向けた。
「で、どーしたの。」
「…ちょっと、疲れまして。」
優しく、あっさりとした口調で理由を聞いてくるフランスに、日本はいつものように笑ってそう呟いた。
「すいません、」
「迷惑じゃないから、気にすんなよ。」
やっと話すようになった日本が恐らく続けるであろう言葉を、フランスが遮る。
日本は少し驚いたように目を開き、そして笑って礼を言った。
「疲れた?」
「少し。」
フランスはそれ以上問わなかった。ただ笑って日本の黒髪をくしゃりと撫でて、日本はまた笑った。
(いくらでもある、永く生きればそれだけ多い。
いろいろ、溜まりに溜まって、酷く億劫になる。)
「でもさ、何で俺よ。」
深くソファに腰掛け、青い目は苦笑いを浮かべて言った。片手はまだ日本の髪をいじっている。
言われた側は黒い目を向けて、何故とは、と首をかしげた。
「選ばれるのは至極光栄だがね。コッチまで来たら、あいつが居る。」
そう言う声は、少しばかり拗ねたような色で、言った本人が嫌な顔をしている。
(あぁくそ、あの仏頂面の朴念仁。
なんであんなの選ぶんだ。)
日本はゆっくりと目を伏せて、小さく笑う。
「あの方にだけは、見せれません。」
呟く言葉は小さく儚げだが、しかし悲しいものではなかった。
「沢山のものを頂きました。それらのお返しができたとは、到底思えない。」
「だから頼らない?」
「せめて、頼らないのです。」
目線を上げて、すこし茶化した物言いで笑った。
(沢山のものは、物質的なものばかりではなくて、きっとそれは心とか想いとかの類だ。)
(でもそれらは、与えなければ与えられない。)
(お前が与えるから、あいつも与える。)
(誰が「お返しできてない」って?)
「なんちゅーか、ね。」
少しの間、何か考えるように黙っていたフランスは天井を見上げて言った。
「せめて、頼ってやれよ。」
(頼られた事を喜ぶべきか、悲しむべきか。)
(後者だな。)
日本はフランスの言葉に、静かに笑みを浮かべただけで答えなかった。
日本も疲れることぐらいあるだろうと。表に出す事は滅多に無いだろうけども。
弱みを見せれる人が心寄せる人とは限らない。