「『一人』と『独り』は違うんですよ。」



アポも無しにいきなり訪れるのは失礼だろうとは思っていたが、一度「会いたい」と思えばその衝動を簡単に消すこともできず。
せめてもの償いか、もしくは自分の体裁を保つために色とりどりの薔薇を手に戸を叩けば、一言の文句も無く招き入れられる。
あまつさえ花束に礼まで言われればなんとも情けなく、上手く言葉もつむげぬままに気付けば夕食の席だった。

温かな湯気の立つ大皿を机に置きながら、彼の国はそんな事を言う。
理解できないと顔に書いてあるだろう、俺に向かって言葉を続けた。

「そうですね…。」

自分より遥かに年上の麗人は、幼く首をかしげる。

「『一人』でいても悲しくはないですが、『独り』は悲しいのです。」

落ち着いた色調の飾棚から紙を取り出し、すらすらと二つの単語を書いた。
綺麗な字だと感心したものの、やはりいま一つ、日本の言葉の真意は掴めない。

「どうぞ、お食べになってくださいね。」

言われて大皿を見る。ジャガイモにニンジン、タマネギ、牛肉に…なんだ、あの長いうねうねしたのは。
いまだ上手く使いこなせない箸を不恰好に動かして小皿に取る。長いのは除けた。
イモを割るとほこり、と湯気が立ち、その一欠けを口に含む。

「…旨いな。何ていうんだ、これ。」
「肉じゃが、です。」

何故か、日本は少し困ったように笑った。
机の端に置かれた紙を手に取って問う。

「何が違うんだ。」
「意味合い、と申しましょうか。」

ごつごつとした男らしい指ではなく、しかし女のように細々しいそれでもない。
彼の国は剣を持つのだから。
綺麗な指が器用に二本の棒を扱う。

「私は一人で暮らしておりますが、それを苦しいと思ったり淋しいと思ったりは致しません。」

もちろん、お客様は嬉しいですけれど。そういってこちらを見て笑うので、頬があつくなる。
思わずつい、と目を逸らしてしまう。話す相手にすこぶる失礼だと思うが、日本は特に何も言わなかった。
目線の先で小さな少女が笑顔で走っていた。
どこが一人暮らしだ。さっきからばたばた走る音がする。

「辛いのは、忘れられた時です。」
「何を。」
「私を。」

牛肉は長く煮込まれ柔らかい。噛めば汁が滲み出て、口に広がる。ホントに旨い。
少女が廊下で、なにやらボールのようなもので遊んでいる。 日本の返答はひどく簡潔だった。


「一人でここにある事は辛くないのです。この身を知って、覚えていてくれる人が居るなら。
 けれど万人に忘れ去られた時、わたしは『独り』になるのです。」


それは、ひどく辛い事だと思うのです。例え話だとしても、悲しくなるほど。
日本はそう言うと、箸でニンジンを二つに割り、つい、と口に入れた。

「誰も私を見ない。私を知らない。そこには私の存在が無い。」
「…。」
「独りとは、孤独とは、つきつめればそういう事であろうと思うのですよ。」

そこに日本はいるだろうか。
馬鹿らしくも不安に苛まれたが、目の前には特に気負った風も無い日本がニンジンを平らげていた。

「私達は確かに常日頃、「一人」ではありましょう。」

島国ゆえのさがですね、そういって日本はいつものように笑う。

「ですが「独り」ではない。」

そう言ってこちらを見る日本の目が優しく揺らぐので、気恥ずかしい。
ただ一言、そうだな、と返すのが精一杯だった。









いつの間にか、少女の足音が消えている。

忘れ去られたものは何処にも存在し得ない。











ああ、独りとはこう言う事かと、理解できたがそれはやはりひどく悲しかった。










でもその後、部屋にちゃっかり少女現れてまた日本に変な目で見られるよ!
またヘタレの香り漂う英。カッコイイ英が書きたいものだ…。