それは本音を隠すのが上手い彼の、数少ない地雷だったのだ。
心情に踏み入る無粋な真似を恥じて謝ると、なんとも頼りない笑顔で構わないと答えてそれきりだった。
静寂をこれ程居辛く感じたことは少ない。



風薫る五月。
新緑を揺らす流れは爽やかな香を運び、窓の外の景色は眩しく輝く。
その美しきを愛でるであろうかの国はしかしその空色の眼を虚ろに漂わす。



困ってしまう、この国に黙られると。
プライドは人一倍高いが、それ故であろう、自分を隠す事に長けた国。
いつも飄々と、しかしそれがただの考え無しでないのを知っている。







「…人はなぁ。」


「人は、駄目だわ。」


「俺の事、置いてっちまうもん。」







幾許かの沈黙の後、ぽつりと落とされた言葉のなんと儚い事か。
何人にも見せぬよう内包された弱さをただの三言で吐き出す。

消え逝くのは道理だ。私達よりずっと早く。
幾年月を永く有っても、しかし私達はそれに慣れる事は無い。







「…やだねぇ、湿っぽいのは。」
言葉を掛けられぬ私を見て、彼はいつもより弱くしかし儚さの消えた声でそう言った。

「悪ぃ。俺ちょっと寝るわ。」
最近寝不足でさ。言いながら眉を下げて悪戯っぽく笑うので、結局謝罪も慰めも出来ぬままに、では布団を敷きましょうと腰を上げかける。
優美にゆったりと伸びた腕が私を掴まなければ立ち上がれただろう。

「いやいや、ここは膝枕だろ。はい座る座る。」
「え、あ、こら、何やってるんですか…!」

あれよあれよと言う間に膝枕。私を見上げる表情はやはり静かに憂いたもので、また何も言えなくなった。












「なあ、日本。」
「はい。」
「お前は置いてくなよ。」
「…約束は、破ってはならないものです。」
「正直モン。優しい嘘は必要だぞ。」















「おやすみ。」
「…お休みなさい。」
















寝不足は嘘でなかったらしい。
幾分も経たぬ間に寝入ってしまった。

「…。」

破ってはならぬなら、破らぬように。果たされるように。
いつかあなたに刀を向ける日が来ても。

「善処、致しましょう。」

この言葉が優しい嘘にならないように。










キリ番リクエスト「切ない仏日」。地雷はきっとオルレアンの乙女。
彼女とフランスの関係はもはや別次元と思っております。深すぎる繋がり。
これで仏日とか言ってすいませんでした…。
シロツメクサの花言葉:約束